歯の痛み

どんな痛みでもそれが持続すると、気持ちが晴れず落ち込み暗くなります。いわゆる痛みに支配された生活となります・・・いやなものですよね! 以下の文章は以前西日本新聞に私が投稿したものです。少し長いですが興味のある方は最後までごらんください。

 つい先日、友人の歯科医から電話がありました。「歯が痛くてどうしようもないから、診てくれない?」早速来院してもらい、治療しました。痛みが引くにつれ、「イヤー自分も歯医者だけど、こんなにありがたいもんだとは思わなかった」と喜ばれました。うれしいやら恥ずかしいやら妙な気持ちになりました。

 歴史的にみても歯科医療は痛みとの戦いでした。1845年、アメリカの歯科医ウェルズが笑気(亜酸化窒素)の吸入で痛みを鎮静させて抜歯を行いました。世界初の全身麻酔は1846年、やはりアメリカの歯科医モートンがジエチルエーテルの吸入で行いました。現在は優れた局所麻酔薬のおかげで、安全な無痛治療が可能となりました。

 歯科領域では、歯、歯肉、あご、顔面、舌や口腔粘膜などの痛みがありますが、一番多いのは歯、歯肉の痛みです。虫歯や歯周病の痛みは経験された方が多いと思います。それらは実際、歯に穴があいたり、歯茎が腫れたりして自分でも判断がつきやすいでしょう。

 ところが虫歯や歯周病でもないのに歯がうずく経験をされた方もいるのではないでしょうか。歯の磨耗などで神経が炎症を起こして痛むことも珍しくありません。神経を取ってかぶせた歯が痛む場合、歯根の破折が原因かもしれません。かみ合わせが悪くても負担のかかる歯が痛むことがありますし、歯と歯の間にものが挟まっても痛みます。親知らずや外傷も歯痛の原因になります。

 花粉症のシーズンには、上あごの奥歯が痛み、来院される患者さんが例年みられます。これは鼻炎によって副鼻腔粘膜が過敏になっているため、近くの上あごの奥歯にもその影響が出ていると考えられます。風邪などで歯が浮いたように感じることも多いようです。

 脳神経の中で最も大きい神経で、主に顔や口の中の感覚をつかさどる「三叉神経」のうずきも上顎臼歯や下顎臼歯の痛みとして感じることがありますし、心筋梗塞などの虚血性心疾患の患者さんが、下あごの歯にうずきを訴えることはよく知られています。

 また、筋肉が原因の歯痛というのがあります。こめかみや、あごの周りの筋肉が疲労し、上顎臼歯や下顎臼歯部の痛みとして感じられるものです。これらは関連通と呼ばれ、痛みの信号が神経の交わる部分で誤って伝わり、歯の痛みと感じます。電話の混線みたいなものですね。

 まれに原因がわからない痛みにも遭遇します。きちんと治療され、どこも悪くないように思えるのに、患者さんが「痛くてたまらない」と言われると、頭を抱えてしまいます。こういう場合、心因性の痛みも考えられます。心因性は社会的ストレスやうつ病などが絡んでいるようです。受験期の患者さんの歯の痛みが合格とともになくなった例もありました。

 痛みは奥が深く、ごく一部を述べたにすぎません。気になる歯科領域の痛みがありましたら、早めにかかりつけの歯科医にご相談ください。痛みをあまり我慢すると、神経細胞の遺伝子が変化し、痛みが記憶として残り、原因がなくなっても痛むこともあるそうです。痛みも早期治療が功を奏します。
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